【ケーススタディ】大手と戦わずに北海道No.1。セイコーマートに学ぶ「競争しない」BtoBマーケティング
セイコーマートのビジネスモデルを、公開資料と現場経験から検証したケーススタディです。
PDF・27ページ/2026年10月版
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この記事は、ケーススタディ資料「セイコーマート ビジネスケース」(PDF・27ページ)の要点を、読み物としてまとめたものです。資料の全文は、ページ下部のフォームから無料でダウンロードできます。
1980年代前半、私の最初のアルバイト先は、札幌市北区北25条西5丁目にあったセイコーマートでした。もとは酒屋だった店です。
店の得意先は、地下鉄北24条駅周辺の飲食街でした。店頭の売上と並んで、飲食店への酒の配送が商売の柱だったのです。店頭でも一升瓶やウイスキーのボトルがよく売れ、掛け売りのお客さんもいました。手土産用の一升瓶の包み方を覚えたのも、この店です。
その後、1980年代なかばに札幌市内のセブン-イレブンでアルバイトをしたとき、システムを含めたその違いに驚きました。同じ「コンビニ」という看板でも、中身はまったく別の商売だったのです。
そのセブン-イレブンでは、お湯で麺を温め、温かいかけ汁をかけたうどんやそばを店で出していました。今はすっかり見なくなりましたし、公式の年表にも載っていません。それでも鈴木敏文氏は生前のインタビューで、始めたばかりの頃はうどんやそばを店で温めて販売していたと語っています(日経ビジネス電子版、2026年5月25日)。現場の当たり前は、意外なほど記録に残らないものです。
あれから40年。北海道大学のケース研究(2020年)によると、大手3社が各都府県で首位を分け合う中、北海道だけは地元のセイコーマートが店舗数で首位です。規模で劣る地方チェーンが、なぜ首位を守り続けられるのか。その答えには、中小製造業がそのまま使えるヒントが詰まっています。
第1章:数字で見るセイコーマート
まず、この会社がどれほど異質かを4つの数字で見てみます。
- 1,189店:2026年9月末の店舗数。うち北海道が1,087店
- 179市町村のうち175:北海道でセコマグループの小売店がある市町村の数。その市町村の人口で数えたカバー率は99.8%(住民の99.8%が近くで買い物できる、という意味ではありません)
- 11年連続1位:日本版顧客満足度指数(JCSI)のコンビニ部門。2026年度のスコアは77.2で、2位のローソンは68.9
- 1,050店:2018年の北海道胆振東部地震で全道が停電した日に、営業を続けた店の数(当時約1,100店)
1号店の開業は1971年8月です。セブン-イレブン1号店(1974年、東京・豊洲)より約3年早く、現存する日本最古のコンビニとされています。
ただ、私が注目したいのは歴史の長さではありません。この会社は、もともとBtoBの会社だったという点です。
資料の全文(PDF・27ページ)では、この記事で触れきれなかった「採算の条件と限界」「直営化がもたらした効果」「大手3社との比較」、研修で使える討議用の設問まで扱っています。ダウンロードはこちら
第2章:始まりは「取引先の生き残り」だった
セイコーマートの母体は、札幌の酒類卸「丸ヨ西尾」です。開発課長だった赤尾昭彦氏が米国のコンビニを知り、取引先の酒屋をコンビニに転換させることを提案しました。
当時、北海道の酒屋は後継者不足とスーパーの攻勢に苦しんでいました。卸にとって、取引先の衰退は自社の衰退です。つまりセイコーマートは、卸が「顧客の生き残り」を事業として設計したものでした。今の言葉で言えば、カスタマーサクセスの原型です。
加盟店の条件も、大手とは逆でした。北海道大学のケース研究によると、1988年時点の加盟店の粗利は18%に設定され(大手平均は27〜28%)、その分を売価の安さに回していました。本部に納めるロイヤルティは、当時は売上のわずか1.5%です(1977年までは1%)。酒販免許を持つ店を加盟店にしたため、1993年時点で全店の96%が酒を扱っていました。
私がアルバイトした店は、まさにこのモデルの中にありました。「コンビニの皮をかぶった酒屋」だったのです。
酒屋モデルが役目を終えた理由
しかし、このモデルは長くは続きませんでした。理由は大きく3つあります。
- 強みが制度変更で薄れた:酒類小売免許の距離基準が2001年、人口基準が2003年に廃止され、大手コンビニも酒を扱えるようになった
- 担い手が年を取った:丸谷智保会長は、30年も経つと加盟店のオーナーが年を取って経営が難しくなり、本部が店を引き取ったと語っています
- FCでは採算の合わない地域に出店しにくい:直営なら、地域に必要とされればトントンでも出店を検討でき、採算も複数店舗をまとめて考えられる
実は私のアルバイト先でも、2代目の店長が腰を痛め、重い酒の配送がこなせなくなって経営から退きました。配送も掛け売りも、店主の体力と人間関係に支えられた商売です。店主が退けば、引き継ぐのは簡単ではありません。
こうしてセイコーマートは、直営店が8割を超える「持つ経営」へ移りました(2024年時点)。直営化が本格的に進んだのは2000年代以降で、直営比率は2004年の約2割から、2019年には約8割になっています。ただし、目的は変わっていません。創業時は「酒屋の存続」、今は「地域の存続」です。
中小製造業への示唆
自社製品を売ることより先に、顧客の事業が続くかどうかを考える。顧客の人手不足や後継者問題は、そのまま自社の新しい事業機会になり得ます。たとえば部品単体ではなく、組立済みのユニットで納めるといった形です。
第3章:「競争しない」という戦略
セイコーマートには、やらないことがたくさんあります。
おでんはやりません。恵方巻きもやりません。全店での24時間営業もしません。丸谷会長は東京商工リサーチのインタビューで、おでんをやれば「同じコンビニ」になってしまうと語っています。恵方巻きの提案には、太巻きならよいと返したそうです。
日経ビジネスでは、さらに明快です。競争に勝つためには、「競争しないこと」、競争に巻き込まれないことが大切だというのです。
大手の土俵で戦えば、規模と資本で劣る側が負けます。だから土俵そのものに上がらない。その代わりに、自分たちの市場に合った商品に力を注ぎます。
象徴的なのが、店内で炊いたご飯のおにぎりやカツ丼を出す「ホットシェフ」です。店内調理そのものは大手にもあります(ローソンの「まちかど厨房」は2011年に全国展開)。ホットシェフは、雪で配送が止まる遠隔地でも温かい食事を出すために始まったと説明されています。ただし同時代の記録を見ると、それだけではありません。1999年に当時の赤尾副社長は「競合店対策」として店内調理を導入したと語っており、店内調理品は粗利の高い収益策でもありました。社会的な意義と収益を両立させた商品だったのです。今は930店以上で扱っています(おにぎりのみの「ホットシェフミニ」を含む)。
中小製造業への示唆
「何でもやります」は、BtoBでは「特徴がありません」と同じ意味に聞こえます。汎用品の価格競争から降り、小ロット・短納期・難加工材に絞る。そして「やらないこと」を明言することが、立ち位置をはっきりさせます。
第4章:供給網全体で採算を取る
では、過疎地の小さな店はどうやって成り立っているのでしょうか。答えは、供給網全体の効率と、店ごとの採算設計の組み合わせにあります。
セコマグループは、公式のグループ一覧で27社(持株会社を含む)。農産物の調達、食品製造、物流、小売をグループで担っています。2025年8月の同社資料によると、工場は道内に22、物流拠点は北海道13・本州3、トラックは300台です。配送を増やすのではなく混載で集約し、店舗のごみ・古紙・廃食油を回収する復路の物流も含めると、積載率は8割を超えるとされます(同社基準)。惣菜の容器まで自社で作り、容器コストを約80%下げました。浮いた分は惣菜の中身に回しています。
ただし、内製しても製造費や設備投資はかかります。垂直統合そのものが安さを保証するわけではありません。安さを生んでいるのは、工程をまたいだ商品設計と、物流の効率化で総コストを下げる工夫です。
大手の店は、本部にロイヤルティを納める「売場」です。一方、セイコーマートの店は、いわば「サプライチェーンの出口」です。出口が増えるほど、工場と物流の稼働が上がります。この全体の効率が、低収益地域でも店が続く条件を作っています。
ただし、赤字の店を工場の利益で恒常的に支えている、と示す資料はありません。丸谷会長は同じインタビューの下編で、過疎地に積極的に出店するわけではないと明言しています。住民や行政の要望があり、赤字にならずトントンでやれると分かれば協力する、というのが条件です。
その計算は具体的です。人口の少ない初山別村の店では、人件費・光熱費・建物の減価償却を賄う目安を1日30万円と試算しました。商圏900人の3分の1が1,000円ずつ使えば届く計算です。実際には、周囲に店がないため生鮮品のまとめ買いが起き、日販は30万円を超えたそうです。
ただし、これを「住民300人が毎日買う」と読むことはできません。客単価が1,500円なら、日販30万円には1日200人の来店が要ります。人口900人の村でそれが成り立つのは、住民のまとめ買いに加えて、観光客や通過する車、競合店の撤退といった、人口以外の需要があるからだと考えられます。商圏の人口だけでは、店の採算は説明できないのです。
もう一つ見落とせないのが、自治体の関与です。初山別村では役場が土地を安く提供し、紋別市上渚滑では市が建設費を補助しました(自治体の補助を受けた出店は同社初)。過疎地の店は、セコマの仕組みだけでなく、地域との協力の上に成り立っています。
地域貢献を、採算の成立条件まで設計した事業にする。ここが、この会社の本当のすごさだと私は考えます。
中小製造業への示唆
製品単品の粗利だけで案件を判断していないでしょうか。セコマが工程をまたいで採算を考えるように、BtoBでも取引全体で採算を見る視点が使えます。たとえば本体は薄利でも、保守・消耗品・改造まで含めた生涯価値(LTV)で判断する方法です。ただし、保守契約が確実に続くことが前提になります。
第5章:信頼は、行動の積み重ねでできている
2018年9月6日、北海道全域が停電しました。いわゆるブラックアウトです。
そのときセイコーマートは、発災当日から約1,100店のうち1,050店で営業を続けました。全店に、車のエンジンから給電してレジを動かすキットを配備していました。ガスで炊くホットシェフの釜で、ご飯を炊いておにぎりを握った店もあります。自治体との災害協定に基づき、食料や日用品を20万個供給しました。
日本サービス大賞の受賞資料も、同社を「地域のライフライン」と評しています。丸谷会長は、道外での知名度が上がったことが外販の取引につながったと語っています(RIETIでの講演)。今、セコマは本州の大手スーパーやドラッグストアなど約400社に商品を供給しています(2026年の社長談)。丸谷会長は2019年の東京商工リサーチのインタビューで、その東京での売上を店舗で上げようとすれば約50店の出店が必要な規模だ、と話しています。
もう一つ、興味深い話があります。丸谷会長によると、他チェーンが評価される理由は「家から近い」「便利」が中心です。一方、セイコーマートは「牛乳と卵が安い」「100円惣菜がおいしい」と、商品名で語られるそうです。
近いから選ばれる店は、もっと近い店ができれば選ばれなくなります。商品で選ばれる店は、そうはなりません。
中小製造業への示唆
BtoBで強い差別化の一つは、危機のときに供給責任を果たした実績です。しかし多くの企業は、その実績を「当たり前のこと」として語らずにいます。災害や部材不足のときに納品を続けた経験は、それ自体が何よりの営業資料になります。
明日から始める3つのアクション
-
選ばれた理由を顧客に聞いてください 直近の受注先と失注先、合わせて5社に、なぜ選んだのか(選ばなかったのか)を聞いてください。「付き合いが長い」「近い」ではなく、技術や対応が具体的に語られているかを確かめます。
-
「やらないこと」を3つ書き出してください 受けない案件、追わない市場、作らない製品を3つ決めてください。それを営業資料の1ページにすると、自社の立ち位置が顧客に伝わります。
-
危機対応の実績を1本の事例にしてください 納期の危機、災害、部材不足のときに供給を続けた経験を、社内で一つ選んでください。何が起き、どう動き、顧客に何が残ったかを、1本の事例記事にまとめます。
おわりに:「地域興し」の前に「地域残し」
丸谷会長は、よく地域「興し」と言うが、まず地域「残し」だろうと語っています。
この言葉は、BtoB企業にもそのまま当てはまります。新しい市場を「興す」前に、今の顧客を「残す」。顧客の事業が続くように支え、危機のときにも供給を止めない。その積み重ねが信頼になり、やがて自社を残す力になります。
40年前、北24条の小さな店で一升瓶を包みながら、私はそのことに気づいていませんでした。けれど今思えば、あの店で見ていたのは、顧客を残そうとする商売の原型だったのかもしれません。
資料の全文を読む(無料)
「セイコーマート ビジネスケース――大手と同じ土俵に乗らずに、北海道で首位を守る地域流通モデルの検証」(PDF・27ページ)
この記事の内容に加えて、資料では次の点を扱っています。
- 酒類卸から始まった創業期から現在までの、4つの発展段階
- 直営化の背景と、直営化がもたらした戦略的な効果
- 垂直統合の強みの分解(需要情報・運営・採算)
- 採算が成り立つ条件と、成り立たなくなる条件(初山別店の試算、自治体の関与、「持つ経営」の費用)
- 大手3社との比較(資産の所有・活動の統制・費用とリスクの帰属)
- BtoBマーケティングへの示唆と、研修で使える討議用の設問
ご入力いただいたメールアドレスに、資料のダウンロードリンクをお送りします。取り扱いの詳細はプライバシーポリシーをご覧ください。
本資料と本記事は、公開資料と筆者の経験に基づく独自の分析であり、株式会社セコマおよび関係各社の公式見解ではありません。
出典
- 阿部智和・山口裕之・大原亨「セイコーマート:地方企業によるコンビニエンス・ストア事業の確立」北海道大学 Discussion Paper(2020年)
- 東京商工リサーチ「セコマ」丸谷智保社長 独占インタビュー(上・中・下)(2019年10月)
- 日経ビジネス「セコマ・丸谷会長 必要とされれば、生き残れる」(2024年6月)
- RIETI・21世紀政策研究所 BBLウェビナー(2024年2月)
- 第3回日本サービス大賞 受賞事例(株式会社セコマ)
- 株式会社セコマ 会社概要・グループ一覧(公式)
- セコマ渉外部 行政ヒアリング資料(国土交通省掲載、2025年8月)
- 激流 1999年12月号(国立国会図書館デジタルコレクション)
- ビジネス+IT セコマ赤尾洋昭社長インタビュー(2026年8月)
- 日経ビジネス電子版「追悼 『カリスマ』鈴木敏文氏がセブンに贈る言葉」(2026年5月25日)
- セイコーマート ホットシェフ紹介(公式)
- セコマ新卒採用サイト ホットシェフの始まり
- 国土交通白書 コラム
- 日本生産性本部「2026年度JCSI 第2回調査結果」(2026年7月)
- PRESIDENT Online「なぜ北海道の過疎地でも成り立つのか」(2022年9月)
- 国税庁 酒類の販売業免許等に関する懇談会 資料(2002年)
- 高校生による丸谷社長インタビュー(2018年)
【ケーススタディ】大手と戦わずに北海道No.1。セイコーマートに学ぶ「競争しない」BtoBマーケティング
セイコーマートのビジネスモデルを、公開資料と現場経験から検証したケーススタディです。
PDF・27ページ/2026年10月版
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この記事は、ケーススタディ資料「セイコーマート ビジネスケース」(PDF・27ページ)の要点を、読み物としてまとめたものです。資料の全文は、ページ下部のフォームから無料でダウンロードできます。
1980年代前半、私の最初のアルバイト先は、札幌市北区北25条西5丁目にあったセイコーマートでした。もとは酒屋だった店です。
店の得意先は、地下鉄北24条駅周辺の飲食街でした。店頭の売上と並んで、飲食店への酒の配送が商売の柱だったのです。店頭でも一升瓶やウイスキーのボトルがよく売れ、掛け売りのお客さんもいました。手土産用の一升瓶の包み方を覚えたのも、この店です。
その後、1980年代なかばに札幌市内のセブン-イレブンでアルバイトをしたとき、システムを含めたその違いに驚きました。同じ「コンビニ」という看板でも、中身はまったく別の商売だったのです。
そのセブン-イレブンでは、お湯で麺を温め、温かいかけ汁をかけたうどんやそばを店で出していました。今はすっかり見なくなりましたし、公式の年表にも載っていません。それでも鈴木敏文氏は生前のインタビューで、始めたばかりの頃はうどんやそばを店で温めて販売していたと語っています(日経ビジネス電子版、2026年5月25日)。現場の当たり前は、意外なほど記録に残らないものです。
あれから40年。北海道大学のケース研究(2020年)によると、大手3社が各都府県で首位を分け合う中、北海道だけは地元のセイコーマートが店舗数で首位です。規模で劣る地方チェーンが、なぜ首位を守り続けられるのか。その答えには、中小製造業がそのまま使えるヒントが詰まっています。
第1章:数字で見るセイコーマート
まず、この会社がどれほど異質かを4つの数字で見てみます。
- 1,189店:2026年9月末の店舗数。うち北海道が1,087店
- 179市町村のうち175:北海道でセコマグループの小売店がある市町村の数。その市町村の人口で数えたカバー率は99.8%(住民の99.8%が近くで買い物できる、という意味ではありません)
- 11年連続1位:日本版顧客満足度指数(JCSI)のコンビニ部門。2026年度のスコアは77.2で、2位のローソンは68.9
- 1,050店:2018年の北海道胆振東部地震で全道が停電した日に、営業を続けた店の数(当時約1,100店)
1号店の開業は1971年8月です。セブン-イレブン1号店(1974年、東京・豊洲)より約3年早く、現存する日本最古のコンビニとされています。
ただ、私が注目したいのは歴史の長さではありません。この会社は、もともとBtoBの会社だったという点です。
資料の全文(PDF・27ページ)では、この記事で触れきれなかった「採算の条件と限界」「直営化がもたらした効果」「大手3社との比較」、研修で使える討議用の設問まで扱っています。ダウンロードはこちら
第2章:始まりは「取引先の生き残り」だった
セイコーマートの母体は、札幌の酒類卸「丸ヨ西尾」です。開発課長だった赤尾昭彦氏が米国のコンビニを知り、取引先の酒屋をコンビニに転換させることを提案しました。
当時、北海道の酒屋は後継者不足とスーパーの攻勢に苦しんでいました。卸にとって、取引先の衰退は自社の衰退です。つまりセイコーマートは、卸が「顧客の生き残り」を事業として設計したものでした。今の言葉で言えば、カスタマーサクセスの原型です。
加盟店の条件も、大手とは逆でした。北海道大学のケース研究によると、1988年時点の加盟店の粗利は18%に設定され(大手平均は27〜28%)、その分を売価の安さに回していました。本部に納めるロイヤルティは、当時は売上のわずか1.5%です(1977年までは1%)。酒販免許を持つ店を加盟店にしたため、1993年時点で全店の96%が酒を扱っていました。
私がアルバイトした店は、まさにこのモデルの中にありました。「コンビニの皮をかぶった酒屋」だったのです。
酒屋モデルが役目を終えた理由
しかし、このモデルは長くは続きませんでした。理由は大きく3つあります。
- 強みが制度変更で薄れた:酒類小売免許の距離基準が2001年、人口基準が2003年に廃止され、大手コンビニも酒を扱えるようになった
- 担い手が年を取った:丸谷智保会長は、30年も経つと加盟店のオーナーが年を取って経営が難しくなり、本部が店を引き取ったと語っています
- FCでは採算の合わない地域に出店しにくい:直営なら、地域に必要とされればトントンでも出店を検討でき、採算も複数店舗をまとめて考えられる
実は私のアルバイト先でも、2代目の店長が腰を痛め、重い酒の配送がこなせなくなって経営から退きました。配送も掛け売りも、店主の体力と人間関係に支えられた商売です。店主が退けば、引き継ぐのは簡単ではありません。
こうしてセイコーマートは、直営店が8割を超える「持つ経営」へ移りました(2024年時点)。直営化が本格的に進んだのは2000年代以降で、直営比率は2004年の約2割から、2019年には約8割になっています。ただし、目的は変わっていません。創業時は「酒屋の存続」、今は「地域の存続」です。
中小製造業への示唆
自社製品を売ることより先に、顧客の事業が続くかどうかを考える。顧客の人手不足や後継者問題は、そのまま自社の新しい事業機会になり得ます。たとえば部品単体ではなく、組立済みのユニットで納めるといった形です。
第3章:「競争しない」という戦略
セイコーマートには、やらないことがたくさんあります。
おでんはやりません。恵方巻きもやりません。全店での24時間営業もしません。丸谷会長は東京商工リサーチのインタビューで、おでんをやれば「同じコンビニ」になってしまうと語っています。恵方巻きの提案には、太巻きならよいと返したそうです。
日経ビジネスでは、さらに明快です。競争に勝つためには、「競争しないこと」、競争に巻き込まれないことが大切だというのです。
大手の土俵で戦えば、規模と資本で劣る側が負けます。だから土俵そのものに上がらない。その代わりに、自分たちの市場に合った商品に力を注ぎます。
象徴的なのが、店内で炊いたご飯のおにぎりやカツ丼を出す「ホットシェフ」です。店内調理そのものは大手にもあります(ローソンの「まちかど厨房」は2011年に全国展開)。ホットシェフは、雪で配送が止まる遠隔地でも温かい食事を出すために始まったと説明されています。ただし同時代の記録を見ると、それだけではありません。1999年に当時の赤尾副社長は「競合店対策」として店内調理を導入したと語っており、店内調理品は粗利の高い収益策でもありました。社会的な意義と収益を両立させた商品だったのです。今は930店以上で扱っています(おにぎりのみの「ホットシェフミニ」を含む)。
中小製造業への示唆
「何でもやります」は、BtoBでは「特徴がありません」と同じ意味に聞こえます。汎用品の価格競争から降り、小ロット・短納期・難加工材に絞る。そして「やらないこと」を明言することが、立ち位置をはっきりさせます。
第4章:供給網全体で採算を取る
では、過疎地の小さな店はどうやって成り立っているのでしょうか。答えは、供給網全体の効率と、店ごとの採算設計の組み合わせにあります。
セコマグループは、公式のグループ一覧で27社(持株会社を含む)。農産物の調達、食品製造、物流、小売をグループで担っています。2025年8月の同社資料によると、工場は道内に22、物流拠点は北海道13・本州3、トラックは300台です。配送を増やすのではなく混載で集約し、店舗のごみ・古紙・廃食油を回収する復路の物流も含めると、積載率は8割を超えるとされます(同社基準)。惣菜の容器まで自社で作り、容器コストを約80%下げました。浮いた分は惣菜の中身に回しています。
ただし、内製しても製造費や設備投資はかかります。垂直統合そのものが安さを保証するわけではありません。安さを生んでいるのは、工程をまたいだ商品設計と、物流の効率化で総コストを下げる工夫です。
大手の店は、本部にロイヤルティを納める「売場」です。一方、セイコーマートの店は、いわば「サプライチェーンの出口」です。出口が増えるほど、工場と物流の稼働が上がります。この全体の効率が、低収益地域でも店が続く条件を作っています。
ただし、赤字の店を工場の利益で恒常的に支えている、と示す資料はありません。丸谷会長は同じインタビューの下編で、過疎地に積極的に出店するわけではないと明言しています。住民や行政の要望があり、赤字にならずトントンでやれると分かれば協力する、というのが条件です。
その計算は具体的です。人口の少ない初山別村の店では、人件費・光熱費・建物の減価償却を賄う目安を1日30万円と試算しました。商圏900人の3分の1が1,000円ずつ使えば届く計算です。実際には、周囲に店がないため生鮮品のまとめ買いが起き、日販は30万円を超えたそうです。
ただし、これを「住民300人が毎日買う」と読むことはできません。客単価が1,500円なら、日販30万円には1日200人の来店が要ります。人口900人の村でそれが成り立つのは、住民のまとめ買いに加えて、観光客や通過する車、競合店の撤退といった、人口以外の需要があるからだと考えられます。商圏の人口だけでは、店の採算は説明できないのです。
もう一つ見落とせないのが、自治体の関与です。初山別村では役場が土地を安く提供し、紋別市上渚滑では市が建設費を補助しました(自治体の補助を受けた出店は同社初)。過疎地の店は、セコマの仕組みだけでなく、地域との協力の上に成り立っています。
地域貢献を、採算の成立条件まで設計した事業にする。ここが、この会社の本当のすごさだと私は考えます。
中小製造業への示唆
製品単品の粗利だけで案件を判断していないでしょうか。セコマが工程をまたいで採算を考えるように、BtoBでも取引全体で採算を見る視点が使えます。たとえば本体は薄利でも、保守・消耗品・改造まで含めた生涯価値(LTV)で判断する方法です。ただし、保守契約が確実に続くことが前提になります。
第5章:信頼は、行動の積み重ねでできている
2018年9月6日、北海道全域が停電しました。いわゆるブラックアウトです。
そのときセイコーマートは、発災当日から約1,100店のうち1,050店で営業を続けました。全店に、車のエンジンから給電してレジを動かすキットを配備していました。ガスで炊くホットシェフの釜で、ご飯を炊いておにぎりを握った店もあります。自治体との災害協定に基づき、食料や日用品を20万個供給しました。
日本サービス大賞の受賞資料も、同社を「地域のライフライン」と評しています。丸谷会長は、道外での知名度が上がったことが外販の取引につながったと語っています(RIETIでの講演)。今、セコマは本州の大手スーパーやドラッグストアなど約400社に商品を供給しています(2026年の社長談)。丸谷会長は2019年の東京商工リサーチのインタビューで、その東京での売上を店舗で上げようとすれば約50店の出店が必要な規模だ、と話しています。
もう一つ、興味深い話があります。丸谷会長によると、他チェーンが評価される理由は「家から近い」「便利」が中心です。一方、セイコーマートは「牛乳と卵が安い」「100円惣菜がおいしい」と、商品名で語られるそうです。
近いから選ばれる店は、もっと近い店ができれば選ばれなくなります。商品で選ばれる店は、そうはなりません。
中小製造業への示唆
BtoBで強い差別化の一つは、危機のときに供給責任を果たした実績です。しかし多くの企業は、その実績を「当たり前のこと」として語らずにいます。災害や部材不足のときに納品を続けた経験は、それ自体が何よりの営業資料になります。
明日から始める3つのアクション
-
選ばれた理由を顧客に聞いてください 直近の受注先と失注先、合わせて5社に、なぜ選んだのか(選ばなかったのか)を聞いてください。「付き合いが長い」「近い」ではなく、技術や対応が具体的に語られているかを確かめます。
-
「やらないこと」を3つ書き出してください 受けない案件、追わない市場、作らない製品を3つ決めてください。それを営業資料の1ページにすると、自社の立ち位置が顧客に伝わります。
-
危機対応の実績を1本の事例にしてください 納期の危機、災害、部材不足のときに供給を続けた経験を、社内で一つ選んでください。何が起き、どう動き、顧客に何が残ったかを、1本の事例記事にまとめます。
おわりに:「地域興し」の前に「地域残し」
丸谷会長は、よく地域「興し」と言うが、まず地域「残し」だろうと語っています。
この言葉は、BtoB企業にもそのまま当てはまります。新しい市場を「興す」前に、今の顧客を「残す」。顧客の事業が続くように支え、危機のときにも供給を止めない。その積み重ねが信頼になり、やがて自社を残す力になります。
40年前、北24条の小さな店で一升瓶を包みながら、私はそのことに気づいていませんでした。けれど今思えば、あの店で見ていたのは、顧客を残そうとする商売の原型だったのかもしれません。
資料の全文を読む(無料)
「セイコーマート ビジネスケース――大手と同じ土俵に乗らずに、北海道で首位を守る地域流通モデルの検証」(PDF・27ページ)
この記事の内容に加えて、資料では次の点を扱っています。
- 酒類卸から始まった創業期から現在までの、4つの発展段階
- 直営化の背景と、直営化がもたらした戦略的な効果
- 垂直統合の強みの分解(需要情報・運営・採算)
- 採算が成り立つ条件と、成り立たなくなる条件(初山別店の試算、自治体の関与、「持つ経営」の費用)
- 大手3社との比較(資産の所有・活動の統制・費用とリスクの帰属)
- BtoBマーケティングへの示唆と、研修で使える討議用の設問
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本資料と本記事は、公開資料と筆者の経験に基づく独自の分析であり、株式会社セコマおよび関係各社の公式見解ではありません。
出典
- 阿部智和・山口裕之・大原亨「セイコーマート:地方企業によるコンビニエンス・ストア事業の確立」北海道大学 Discussion Paper(2020年)
- 東京商工リサーチ「セコマ」丸谷智保社長 独占インタビュー(上・中・下)(2019年10月)
- 日経ビジネス「セコマ・丸谷会長 必要とされれば、生き残れる」(2024年6月)
- RIETI・21世紀政策研究所 BBLウェビナー(2024年2月)
- 第3回日本サービス大賞 受賞事例(株式会社セコマ)
- 株式会社セコマ 会社概要・グループ一覧(公式)
- セコマ渉外部 行政ヒアリング資料(国土交通省掲載、2025年8月)
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