あなたの案件、誰が止めている?
「全員が拒否権を持つ」日本の購買構造を解剖。技術・IT・購買・経営…誰が止めているかを見つけ、49セルの不安カタログで一緒に解く。
こんにちは、BtoBマーケティング研究所の伊藤宏隆です。
件名の問いから始めます。
あなたが今追っている商談を一つ、思い浮かべてください。
そして、こう自問してみてください。「この案件、もし止まるとしたら、誰が止めるだろう?」
技術部の重鎮か。情シスの責任者か。経理の厳しい人か。それとも、公式には承認ルートに入っていないのに、現場で最も発言力がある、あのベテランか。
日本の製造業B2Bでは、意思決定者が"決める"のではなく、関係者が一人ずつ"止めない"ことで購買が進みます。そしてその"止めない"状態に至るには、関係者一人ひとりの不安を一つずつ解消していく必要がある——。
今号は、この構造を正面から扱った連載第2回と第3回を束ねてお届けします。
第2回の核:Buying GroupからBuying Consensusへ
(公開済)
欧米のBtoB購買研究で使われる Buying Group(買い手委員会) は、「誰かが最終的に決める」ことを前提にしています。しかし日本の製造業B2Bでは、その前提が通用しません。
"全員が拒否権を持つ" のです。
現場が「技術的に無理」と言えば止まる
経理が「会計的に通らない」と言えば止まる
情シスが「セキュリティ的に問題」と言えば止まる
法務が「契約的にリスク」と言えば止まる
稟議の形式は「課長→部長→本部長」と段階承認ですが、その裏で行われる根回し(Nemawashi)では、全員の不安が許容水準を下回るまで、決して前に進みません。
第2回では、この構造を Universal Veto Model(全員拒否権モデル) として定式化し、欧米のBuying Groupとの構造的な違いを掘り下げています。
では、この「全員拒否権」に対して、売り手はどう向き合えばいいのか? 根回しの3フェーズ(技術部門→事業部門→決裁者)で、それぞれ何が効くのか?
▼ 続きを読む(note・第2回)
📖 欧米Buying Group vs 日本のBuying Consensusの構造比較/3つのフェーズ(Champion出現→根回し→稟議)/チャネル二重Buying Consensus/価値共創レイヤー
👉 https://note.com/btobmarketing/n/nd5b09ac06f28?utm_source=newsletter&utm_campaign=no14
(読了目安:約10分)
⭐ 今月の必読:連載第3回「あなたの見込み客は何を恐れているか — 不安カタログという発想」
(昨日 6月1日 公開)
第2回が「誰が止めるか」なら、第3回は 「何が止めるか」。
製造業B2Bの購買プロセスで、ステークホルダーごとに異なる不安を構造化した地図——それが 不安カタログ(Risk Catalog Matrix) です。
7つのステークホルダー × 7種類のリスクで、49セルの不安マトリクスを作りました。
現場担当者は、何を恐れているか
保全技術者は、何を恐れているか
IT情シスは、何を恐れているか
購買調達は、何を恐れているか
経営層は、何を恐れているか
法務は、何を恐れているか
経理は、何を恐れているか
それぞれの最重要不安に対応するコンテンツ(カタログ・試算表・認定書・事例)が、"三種の神器"として整理されています。
第3回では、各ステークホルダーの「最大の不安」を一つずつ掘り下げ、それぞれに効くコンテンツを整理しています。そして、不安カタログは売り手が一方的に埋めるドキュメントではなくChampionと一緒に書き出していく共創的な診断シートとして使うべし、という実装原則も解説しています。
では、この49セルを自社の商談に当てはめたら、どこが埋まっていて、どこが空白なのか?
▼ 続きを読む(note・第3回 / 今月の必読)
📖 不安カタログ7×7マトリクスの全体像/ステークホルダー別の最大の不安と解消コンテンツ/共創的診断シートとしての使い方/三種の神器の優先順位
👉 https://note.com/btobmarketing/n/naccefd329f17?utm_source=newsletter&utm_campaign=no14
(読了目安:約12分)
第2回と第3回を貫く論理
誰が止めるか(Buying Consensus)× 何が止めるか(不安カタログ) の掛け合わせで、「停止リスクの地雷原」が見えてきます。これが、リスク低減マーケティングの作用点を特定する診断装置です。
ただし、ここで重要な視点転換があります。
不安カタログは、売り手が一方的に作って一方的に埋めるものではありません。
なぜなら、買い手自身も、自分たちが何を恐れているかを完全には言語化できていないからです。現場担当者は「なんとなく不安」としか言えない。情シスは「セキュリティが気になる」までは言えても、その"気になる"が監査ログの整備なのか、特権IDの管理なのかまでは、問われるまで意識化されていない。
だから、不安カタログは"買い手と一緒に書き出す共創的な診断シート"として使うのが正しい。
「御社の現場担当者は、このシステム導入で具体的に何が一番心配ですか?」と問う。それに対する答えを一緒に言語化する。そこで出てきた不安に、マーケ資料を提供する。これがRRMの実装の中核です。
売り手が持っていく地図ではなく、買い手と一緒に描く地図。これが、「価値共創としてのRRM」の具体的な姿です。
📋 メルマガ独自付録:稟議・根回し3フェーズ × 効くコンテンツタイプ対応表
noteでは書ききれなかった実務ツールをお届けします。
Phase A:技術検証フェーズ(現場・技術・情シスが中心)
効くコンテンツ:技術仕様書、システム要件書、セキュリティホワイトペーパー、導入環境チェックリスト
目的:技術的フィージビリティの不安を解消
キーパーソン:現場担当者、保全技術者、情シス責任者
Phase B:組織横断フェーズ(購買・経営・法務・経理が加わる)
効くコンテンツ:TCO試算ツール、ROI比較表、導入事例(同業・同規模)、契約サンプル、監査対応チェックリスト
目的:事業判断・組織的整合性の不安を解消
キーパーソン:購買部長、事業部長、法務、経理
Phase C:最終稟議フェーズ(決裁者の判断)
効くコンテンツ:エグゼクティブサマリー(1枚絵)、参照顧客リスト、リスクヘッジ条項、段階導入提案書
目的:決裁者の組織内説明責任を支える
キーパーソン:決裁者本人、および決裁者を補佐するChampion
この表の使い方:
自社の商談を一つ選び、現在どのフェーズにあるかを見定め、そのフェーズで効くコンテンツが手元にあるか棚卸ししてみてください。空白が見つかったら、次の1本を作るターゲットが決まります。
連載の今後
第4回(2026年6月中旬)|行動経済学で読み解く最終決断のトリガー
第5回(2026年7月上旬)|見積もりは最初から決まっている — 出来レースの正体
第6回(2026年7月下旬)|【DX失敗の真因】150年の商社モデルの罠
次号予告(No.15 / 2026年7月1日 AM 8:00 発行予定)
連載第4回(閾値トリガー)と第5回(Spec in)を束ねた 「買い手の社内事情と、売り手はどう入り込むか」 号。独自付録として、「買い手の社内事情を聞き出す5つの質問」テンプレート を予定しています。
それでは、また来月。
BtoBマーケティング研究所
代表 伊藤宏隆
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